読了: Heyman & Mellers (2008) 価格が公正であると思われるのはどういうときか

Heyman, J.E., Mellers, B. (2008) Perceptions of Fair Pricing. Haugtvedt, C.P, Herr, P.M., & Kardes, F.R. (eds) “Handbook of Consumer Psychology“, Chap.27.

 価格の公正性の知覚についての解説。オフィスの本棚で幅を占めているわりにはあまり役に立ったことがない消費者心理学のハンドブックのなかに、価格に関する章がいくつかあることに気づき、ためしに読んでみた。
 イントロダクションと結論の2節しかないというなかなか斬新な構成である。見出し行が落ちているのかも。

1. イントロダクション
 本章は、価格が公正fairであるという消費者の知覚に焦点を当てる。
 その前に、価格評価のプロセスについておさらいしよう。製品についてよく知らないとき、消費者は情報を集め、参照価格を形成し、実際の価格と比較する。参照価格よりも下だったら公正な価格だとみなされる。[参照価格の形成について、Liu & Soman(2006, 同書), Bolton, Warlop, & Alba(2003 JCR)を見よとのこと。しかし、「参照価格よりも下だったら公正だ」というのは公正さの定義として正しいのだろうか。一円入札って公正じゃないような気がしますけど?]
 交換が成立したら、消費者は製品経験を期待と比べる。経験が期待を下回ったら交換が公正でなかったと感じる。

1.1 dual entitlement
 企業が値上げする理由はいろいろある。Kahneman, Knetsch, Thaler(1986 J.Business; 1986 Am.Econ.Rev.)いわく、消費者はコスト増による値上げを公正とみなすが需要増大は供給不足による値上げは公正とみなさない。これは企業側の値上げの動機に依存する話で、大雪のあとでシャベルを値上げするのは公正でないが、大雪のあとでホームレスのシェルターに寄付するためにシャベルを値上げするのは公正だということになる。
 Kahnemanらによれば、価格の公正さの知覚はdual entitlementの原理で記述できる。まず交換が成立しますよね。するとそれが参照されるようになり、消費者のほうは参照価格にentitleされたと感じ、さらに、企業が参照利益にentitleされたと感じる。コストが高くなったとき、企業は値上げによって参照利益を維持できる。これは公正である。しかし需要増大や供給不足で値上げしたときは公正ではないことになる。
 [探してみたところ、dual entitlementの訳語としては「二重権利」とか「二重賦権」といった語が使われているようだ]

1.2 フレーミング効果
 参照点が変わると選好も変わる。これがKahneman&Tversky(1986 J.Business)のフレーミング効果である。
 フレーミング効果は価格の公正性の知覚においても生じる。[事例…]
 機会費用vs.自腹というフレーミング効果もある。[事例…]

1.3 変動プライシング vs. 固定プライシング
 市場によっては価格が変動することがある。価格差別化、動的プライシング、収益管理などという。大きく分けて、単価を時間によって変動させる場合 variable unit pricing と、消費者によって変動させる場合 vairable consumer pricing がある。
 variable unit pricingは、価格はいつ購入するかと何個購入するかの関数となる。我々の学生実験では[…メモ省略]
 variable consumer pricingは、消費者の属性で価格を変える。我々の実験では[…メモ省略]

1.4 公正性知覚を捉える
 変動プライシングは利益を増大させうるが、公正でないと受け取られたらロイヤルティ低下につながる。公正性の知覚に影響する要因が4つある。

  • その産業の規範。たとえば、早く買うと割引になるのが公正だと感じられるはなぜか。なぜ衣類の高年齢者割引は男性割引よりも公正だと感じられるのか。おそらく、そういう価格設定が多いからである。こういう規範をつくるのには長い時間がかかる。
  • 価格の差異の正当化。[著者らの実験の紹介…]
     正当化と言い訳を区別している研究者もいる(Scott & Lyman, 1968 Am.Socio.Rev.)。正当化は、意思決定者が決定の誤りを認めるが、より高次の関心事に照らせばその決定が道徳的に擁護可能であり、従って不適切ではないのだ、という説明である。言い訳は、決定の不適切性は認めるが決定の誤りは認めず、その行為が避けられないものとなった原因を外部に求める説明である。
     Shaw, Wild, Colquitt(2003 J.App.Psych.)のメタ分析では、言い訳は正当化よりも公正だと知覚されやすい[←へえええ!!]。値上げの場合、言い訳としてはコスト増大、正当化としては企業の競争力維持が挙げられる。
  • 価格の一貫性。そもそも変動プライシングというのは選好されないようである。固定プライシングでは価格に予想可能性があり、現在でも未来でも最良の取引だと保証されるからであろう。
  • 価格構造の透明性。[著者らの実験の紹介…]

1.5 未来への道
 我々が思うに、個人レベル情報の増大に伴い、個人レベルの変動プライシングがいずれ規範になるだろう。公正性の知覚は価格差の正当化、価格の一貫性、価格構造の透明性に依存することになる。
 […中略…]
 企業が値上げしてもとりあえず好意的に捉えてもらうためには、評判の構築が必要である。評判の鍵となるのは信用trustである。Ganesan & Hess(1997 Mktg.Let.), Sirdeshmukh, Singh, Sabol(2002 J.Mktg.)によれば、信用は善意benevolenceと能力competenceからなる。

2. 結論
[結論というより、本章の内容を結構真面目に要約しておられる。メモ省略]
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 てっきり価格知覚の解説だろうと思って読み始めたのだけれど、価格の公正性の研究は、もともと価格知覚の研究とは別の流れとしてあるようだ。全然知らなかった。勉強になりました。
 基本的にはレビューなんだけど,著者らの学生実験の結果を頻繁に引き合いに出す構成になっていて、その点でちょっと読みにくかった。研究の概観をつかみたいときに細かい調査項目の話とか読みたくないじゃないですか。