Zhao, M., Hoeffler, S., Zauberman, G. (2011) Mental Simulation and Product Evaluation: The Affective and Cognitive Dimensions of Process Versus Outcome Simulation. Journal of Marketing Research, 48(5), 827-839.
仕事の都合で急遽読んだ奴。新製品評価時のメンタル・シミュレーションの話。
前に雑誌の記事を書くために調べたとき(もう6年も前だ…)、この著者らの論文のうちHeffler(2003 JMR), Zhao, Hoeffler, Dahl(2012 JPIM)はメモを取って読んだんだけど、他のはメモが残ってない。この論文も読んだかどうか定かでない。やれやれ。
えーと、すっかり忘れているので整理しておくと、Hoeffler(2003)は、新製品の使用前評定の前に購入決定時の気持ちとか使用法学習の難しさとかについてあれこれとメンタル・シミュレーションさせると試用後評定の予測力があがるという、いまから振り返ると結構素朴な実験であった(メンタルシミュレーションの中身に幅があるところが味わい深い)。Zhao, et al.(2012)は、革新的新製品の消費者評価は使用場面のイメージ化が困難なときに下がるという話であった。
いまちょっと調べてみたところ、Steve HoefflerさんはVanderbilt大の先生で、1999年ごろから2018年ごろまで新製品評価の論文を量産している。あんまりたくさん書かれるとさ… やる気なくすんだよね… (言いがかり)
いわく。
消費者がまだ使ったことがない製品を買う場合、まだ選好が形成されてないので、広告主はよく使用場面を想像させようとすることが多い。それには効果があるという研究もある(Escalas, 2004JCP; Keller&Block 1997JCP)。本研究では、製品の使用プロセスのメンタル・シミュレーション(プロセス・シミュレーション, PS)と、製品のベネフィットのメンタル・シミュレーション(結果シミュレーション, OS)を区別する。さらに認知的モードと情動的モードを区別する。
あらすじ:使用経験のない製品を評価する際、認知モードの下なら、使用プロセスに焦点が当たり学習コストが重視される。なので、PSよりOSをしたほうが製品評価が高くなる。いっぽう情動的モードの下では、使用プロセスを想像することで情動的没入感が高まる。なので、OSよりPSをした方が製品評価が高くなる。
プロセスシミュレーションと結果シミュレーション
- メンタル・シミュレーションについてはTaylor&Schneider(1989Soc.Cog), Taylor, et. al.(1998Am.Psy.)をみよ。
- マーケティング文脈ではMacInnis&Price(1990Adv.Cons.Res.), Shiv & Huber(2000JCR), Zhao,Hoeffler,&Dahl(2009JMR)をみよ。[←著者は同じだが以前読んだJPIMの論文ではない。なんだかなあ]
- Pham&Taylor(1999PSPB)はPSとOSを区別している。目標達成に対しては前者が効果的。
- マーケ文脈でいうと、PSは行動の強度を高める。Escalas & Luce(2003JCP, 2004JCR)をみよ。
- Zhao,Hoefller,Zauberman(2007JMR): それぞれのタイプのシミュレーションについて、無視されがちな出来事の心的表象を付与するとより効果的になる。
- Thompson, Hamilton, & Petrova(2009 JCR): PSはベネフィットと努力のトレードオフを明確にし決定を困難にするので、結局選択への関与を下げてしまう。
認知的処理モードと情動的処理モード
認知的情報処理と情動的情報処理のちがいを示した研究は多い。Epstein(1994Am.Psy.), Metcalfe & Mischel (1999Psy.Rev.)をみよ。態度形成への影響はEdell & Burke (1987, JMR), 評価への影響はZauberman, Diehl, Ariely(2006J.Behav.Dec.Making), 決定への影響はDhar & Werttenbroch (2000JMR), Hsee&Rottenstreich(2004JEP:G), Shiv & Nowlis (2004JCR)をみよ。
心理学のメンタル・シミュレーション研究によれば、プロセスシミュレーションが認知的処理、結果シミュレーションが情動的処理を引き起こす。消費者行動論ではこの交絡を取り除くことが試みられてきたが、それぞれの効果については調べていない。
認知的処理モードについて。
使用経験のない製品の場合、消費者は製品使用プロセス(学習コスト)に注目するし(Mukherejee & Hoyer,2001JCR)、使用プロセスの視覚化が難しいので(Dahl&Hoeffler,2004JPIM)、製品評価は低くなるだろう。いっぽう、注目を使用プロセスじゃなくてベネフィットに移せば製品評価は上がるだろう。またメンタルシミュレーションのせいで無視されがちな側面に注目が当たれば製品評価は変わるだろう(Zhao,Hoeffler,Zauberman,2007前掲)。
というわけで、認知的モードの下では、PSよりOSのほうが製品評価が高くなるだろう(H1a)。
情動的処理モードについて。
製品を自分自身に結び付けるとき、情動的モードにおいては議論の批評的な分析や否定的思考は弱くなり、製品評価は上がるだろう。[← ここは先行研究があると考えて受け入れよう。いっぱいreferenceが挙がっているが、心理学系の論文はBurnkrand&Unnava(1989PSPB), Green&Block(2000JPSP)] いっぽう、ベネフィットより目標到達プロセスのほうが具体的だから、自己とベネフィットの関連付けより自己と目標到達プロセスとの関連付けのほうが生じやすい(Debevec&Romeo,1992JCR)。
というわけで、情動的モードの下では、OSよりPSのほうが製品評価が高くなるだろう(H1a)。
[つまり、情動的処理モードかつPS→使用プロセスとの自己関連付けが強くなる→製品評価が高くなる、という理屈ねr]
試用プロセスから製品ベネフィットへの焦点の移動
使用経験がない製品でも、ベネフィットの顕著性が高くて使用プロセスが無視されがちな場合について考えよう。
まず認知的処理モードについて。[このあたりからさらに納得できなくなるので逐語訳]
ある特定のタイプのシミュレーションが、認知的情報処理モードにおいては軽く扱われるのが自然であるような製品の側面を拡張したときにより効果的になる、という前提に再び従い、我々はこう予測する。製品ベネフィットがより顕著になっており、使用プロセスが自然に無視されるようなとき、この軽視されがちな側面について考えること(製品の使用方法について考えること, すなわちOS)は、製品の使用方法という観点からの想像上の計画を活性化し、その結果、製品の評価はより好意的になるだろう。言い換えれば、使用プロセスという側面が軽視されがちな時、PSはこの無視されがちな側面を活性化するので、認知的モードの下ではOSよりもより好意的な製品評価が得られるだろう。これはH1aで予測した効果の反転である。
[全然わからん。PSによって製品使用法の学習コストの顕著性が上がるから製品評価は下がるはずじゃないですか?]
情動的処理モードでは、すでに述べたように、ベネフィット志向的な自己関連付けは十分な情動的没入へと至らない。なぜなら、製品ベネフィットの心的表象は、ふつう疎であり抽象的だからだ。従って我々は以下のように提案する。仮に我々が自然な焦点を製品ベネフィットへと移動させるなら(つまり、製品ベネフィットの心的表象がより顕著でヴィヴィットになり使用プロセスの表象がそうでなくなるなら)、情動的モードを用いて自己を製品ベネフィットに関連付ければ、自己を使用プロセスと関連付けた場合よりも情動的没入が促進され、製品評価は上がるだろう。つまり、製品ベネフィットの顕著性が高い場合は、情動的モードの下では、OSは情動的没入を促進し、PSの場合よりも好意的な製品評価へとつながるだろう。これはH1bにおいて予測した効果の反転である。
[さっきはベネフィットは抽象的だからOSをやっても自己関連付けは強くならないと云ったけど、もしベネフィットの顕著性が高かったらOSをやれば自己関連付けが高くなるよね、ってことですかね]
[文章がレトリカルなせいか、私の頭が悪いせいか、どうも話についていけない。まあいいや、途中を端折って整理しよう。説明変数は(1)ベネフィットと使用プロセスのどちらに焦点が当たる変数か、(2)認知的処理モードか情動的処理モードか、(3)PSかOSか。目的変数は製品評価。
- 使用プロセスに焦点が当たりやすい製品、認知的処理モード: PS < OS。ベネフィットに焦点が移るから。(H1a)
- 使用プロセスに焦点が当たりやすい製品、情動的処理モード: PS > OS。プロセスは自己関連付けされやすいから。(H1b)
- ベネフィットに焦点が当たりやすい製品、認知的処理モード: PS > OS。(理屈がわからない)
- ベネフィットに焦点が当たりやすい製品、情動的処理モード: PS < OS。ベネフィットは自己関連付けされやすいから。
こうしてみると、情動的処理モードについては、もともと焦点が当たりやすい側面についてさらにシミュレーションさせる→自己関連付けが上がる→製品評価が上がる、という理屈になっていて、認知的処理モードについては、焦点が当たりにくい側面についてシミュレーションさせる→そっちに焦点が移る→製品評価が上がる、という理屈になっているのね。前者はまあひとつの理屈ではあると思うが、後者はやっぱりよくわからん]
では、自然な焦点はどう決まるか。言い換えると、シミュレーションのタイプと処理モードの相互作用を反転させるモデレータは何か。次の二つが考えられる。
その1,製品タイプ。実用的製品なら使用プロセス、快楽的商品ならベネフィットに焦点が当たりやすくなる。(H2)
その2,時間的フレーム。近い未来なら使用プロセス、遠い未来ならベネフィットに焦点が当たりやすくなる。(H3)
実験1
対象者:学生21名。
要因:シミュレーションタイプ(PS, OS), 処理モード(認知的, 情動的)。ともに被験者間。[ちょっとちょっと… 2×2の被験者間実験で21人? セルあたり約5人じゃん。想像するに、実験1は論文のストーリーの都合上あとで付け足したデモなのかな。別になくてもいいんじゃないかという気もする]
素材:AudioPCという架空の新製品の広告(実はSonyの開発中製品だがブランドは出さない)。なお予備調査でfunctional-affect richのどちらかを訊いたところ、iPadより全然実用品であった。
手続き:{製品使用プロセス(PS-認知的), 製品使用時のベネフィット(OS-認知的), 製品使用にあたって感じる感情(PS-情動的), 製品のベネフィットに対して感じる感情(OS-情動的)}についてメンタルシミュレーションし、なにを考えたかor感じたか自由記述せよ、と教示して広告を提示。で、製品評価を4項目、購入意向を2項目。
操作チェック:自由記述をコーディングしたら、4セル間で期待していた差があった。
結果:製品評価の合成得点、購入意向の合成得点のどちらでも、2×2のANOVAで、主効果なし、交互作用あり、認知的モードではPS<OS, 情緒的モードではPS>OS。
考察:H1が支持されました。
実験2
対象者:学生305人。
要因:製品タイプ(実用的, 快楽的), シミュレーションタイプ(PS, OS), 処理モード(認知的, 情動的)。すべて被験者間。
素材:広告。製品は{ソニーのタブレット(実用的), iPad(快楽的)}。広告のなかの文章が(タイプ2x処理モード2=)4種類ある。[実験1みたいに広告を見る際に教示するのは実務的には無理なので、今回は広告のなかに埋めました、とのこと]
手続き:広告をみせて、製品評価4項目、購入意向2項目、functional-affect rich, 自分がなにを考えたか(near feature-distant future)、を聴取。
操作チェック:[略。上手くいってました]
結果: 製品評価では、2x2x2のANOVAで3元の交互作用があった。[詳細は略するが期待通りの結果。なにこれ、結果が綺麗すぎて引いちゃう…]
考察:H1, H2が支持されました。
実験3
対象者: 学生184人。
要因: 時間(近い未来, 遠い未来), シミュレーションタイプ(PS, OS), 処理モード(認知的, 情動的)。すべて被験者間。
素材: 映像編集ソフトの広告。なお予備調査でfunctional-affect richのどちらかを訊いたところ、iPadより全然実用品であった。
手続き:あなたは大事なイベントが{2日後, 2ヶ月後}にあるのでビデオを撮りたい、と教示。あとは実験1と同じ。で、製品評価を4項目。イベントまでの時間幅の長さについて評定。
操作チェック:時間幅評定には時間の主効果あり。
結果:製品評価では、2x2x2のANOVAで3元の交互作用があった。[詳細は略するが期待通りの結果。またも結果が綺麗すぎる…ドン引き…]
考察:[めんどくさいので読み飛ばしたけど、きっとH1, H3が支持されましたって書いてあるのだろう]
総合的考察
解釈レベル理論では、情動はふつう低レベル情報処理と関連しているので、情動的処理モードでは使用プロセスのような低レベル情報がより考慮されるようになると予測される。本研究とはいっけん矛盾しているようだが、実はそうでない。
たしかに、解釈レベル理論によれば、認知的価値が高レベル解釈、情動的価値が低レベル解釈と結びついているとき、時間間隔が開くと認知的価値の重みが増す。しかし、情動的価値が高レベル解釈と、認知的価値が低レベル解釈と結びついているなら、時間間隔が開くと情動的価値の重みが増すはずである(とTrope&Libermanもいっているぞ)。快楽的製品とは情動的価値が高レベル解釈と結びついている製品だ。だから矛盾してない。
今後の研究への示唆。
メンタル・シミュレーション研究に対して。従来はPSがパフォーマンスとか意図とかを増すと考えられてきた。本研究は新たに認知的モード/情緒的モードという要因を指摘した。
今後の課題:
- もっと極端に快楽的な製品だったらどうなるか。
- もっと未来だったらどうなるか。
- 本研究でのメンタルシミュレーションの操作はdirection志向だが、Castano et al.(2008JMR)のようにsolution志向の手続き(なぜ・どうやって製品を使うかについてのガイダンスとか例とかを含む手続き)だったらどうなるか。
- 遠い未来についての快楽的製品についての実験。[ああそうか、実験してないですね]
- すでに選好が形成されている製品についての実験。予想としては、シミュレーションのタイプ間での差が小さくなるはず。製品への親近性のような別のモデレータが出てくるかも。
云々。
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やれやれ、終わった…
とにかく、実験に入るまでがめんどくさかった。もうちょっとシンプルに書けないもんですかね、先生? いっぽう実験に入るとわかりやすいんだけど、今度は結果が綺麗すぎてどん引きであった。Dan Arielyさんの一件で、いささか人間不信に陥っているもので…
仮説形成のところで最もわからなかったところをメモしておくと、「認知的処理モードでは、製品が持っているふだん焦点が当たりにくい側面についてシミュレーションさせると製品評価が上がるはずだ」と考える理屈がわからない。ゴールは時間的に遠くて製品ベネフィットがど派手で学習コストは高い製品の場合(この秋に使うと来年の芝が滅茶苦茶きれいになるけれど使い方が難しい芝専用肥料とか)、使用プロセスに焦点はあたりにくいが、PSによって学習コストが顕在化して製品評価が下がるはずですよね。
イントロを読み返してみると、「ふだん焦点が当たりにくい側面についてシミュレーションさせると製品評価が上がる」というのはZhao,Hoefller,Zauberman(2007JMR)の主張でもあるので、そっちを読んだ方がいいかもしれない。