論文:そのほか」カテゴリーアーカイブ

読了: 舟津(2019) 制度ロジックってなによ?

舟津昌平 (2019) 制度ロジック多元性下における組織のイノベーションマネジメント ―文献調査に基づく理論研究―. 赤門マネジメント・レビュー, 18(4).

 ときどき学会の大会とかに行って研究者の先生方の話をフガフガと拝聴していたりするんだけど、最近「制度ロジック」という言葉を何度か耳にしたことがあって(たしか消費者行動研究コンファレンスだ)、なんとなーくめくってみた論文。あんまし真剣に読んでないので、失礼な話ではあるのだが、読んだのは何でも記録しておこうという主旨です… すいません…
 いま調べたら、著者の先生は東大の講師になっておられる模様。
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読了:川端(2018) 日本国民道徳論における潔白性概念とお風呂

川端美季 (2018) 近代日本の国民道徳論における「潔白性」の位置づけ. 立命館人間科学研究, 37, 75-89.

 勤務先の同僚が「風呂キャンセル界隈」言説について調べていて、横で聴いてて面白い話だと思ったので、川端美季「風呂と愛国」と一緒に目を通したもの。
 明治後期、海外視察をした衛生専門家のあいだで日本の入浴習慣を美風と捉える言説が生まれる。で、教育勅語の下で構築された国民道徳論では(井上哲次郎とか)、日本の国民性のひとつとして潔白性が挙げられ、入浴習慣はその証拠とみなされるようになった… というような内容であった。
 大正・昭和期には国民道徳論も徐々に変容していき、潔白性はどんどんランクアップしていき、この論文のスコープを超えるけれど、お国のために潔く死に至るべしという戦時下の言説へとつながっていくわけである。へええ。

読了: 堀川 et al.(2021) 「××にはまってます」のきっかけから引退までのモデル

堀川 将幸, 藤村 諒, 佐藤 浩一郎, 寺内 文雄 (2021) 習慣化に関する主体的行動に着目した経験価値変化モデルの提案. デザイン学研究, 68(4), 45-54.

 都合によりざっと目を通した。すいません、あんましちゃんと読んでないです。時間ができたら読み直そう。
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読了:野口(2016) 尾形光琳「紅白梅図屏風」の真ん中に流れている黒い川をどうやって作るのか

 読んだものはなんでも記録しておこうということで…

 先日、和歌山毒物カレー事件の冤罪説の立場に立ったドキュメンタリー映画「マミー」を観て、分析化学者たちが鑑定をめぐって対立する様子に、鑑定というのも一筋縄ではいかないものなのだなあ、と感心した。で、一方の化学者の方についてぼんやり検索していてたどり着いた文章。えーと、一方の化学者の方が講演したら、その講演をこの著者の方が聴いていて、もう一方の化学者の方をめぐって実はこんな対立もあるんですよと教えてくれたのだそうである。

野口康(2016) 金碧の真実 光琳の紅白梅図. 海洋化学研究, 29 (2), 59-78.
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読了: 山本(2023) キルケゴール「おそれとおののき」における信仰理解

山本隆久(2023) 『おそれとおののき』におけるキェルケゴールの信仰理解への神学的考察. 聖書と神学, 34, 23-47.

 ひょんな経緯で読んだもの。掲載誌は日本聖書神学校というところの紀要誌のようなものだと思う。DOIはついていないようだ。
 これはあれだな、やっぱりキルケゴール「おそれとおののき」というのを先に読んでないとわかんないな。調べたところ、キルケゴールの文庫はいまだ新刊で入手可能だが(まじか。すごいな)、この文章については全集にあたらないといけないようだ。

読了:谷口(2023, 2024) 集合的予測符号化とはなにか

谷口忠大 (2023) 自由エネルギー原理と記号・言語創発: 集合的予測符号化から大規模言語モデルまで. 人工知能, 38(6), 810-817.
谷口忠大 (2024) 集合的予測符号化に基づく言語と認知のダイナミクス: 記号創発ロボティクスの新展開に向けて. 認知科学, 31(1), 186-204.

 研究会の予習で大急ぎで読んだ論文を2本。前者は、人工知能学会誌の「自由エネルギー原理とAI」への寄稿である。
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読了:Herbison, et al. (2011) 臨床試験における「二重盲検化したといってはいるが実はいい加減な手続き」によるバイアス

Herbison, P, Hay-Smith, J., Gillespie, W.J. (2011) Different methods of allocation to groups in randomized trials are associated with different levels of bias. A meta-epidemiological study. J. Clinical Epidemiology, 63, 1070-1075.

 読み始めてすぐに「これは俺が探しているものではない…」と気が付いてしまったのだが、面白半分に読み終えてしまった。
 臨床試験で、患者を統制群と処置群に割り当てるとき、どちらに割り当てられたかは患者には知らせないわけだが、隠し方が甘いこともあるよね。そういうときどうなるか、というメタ分析。
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読了:田中(2023) 毎月勤労統計の不正な集計に政府・専門家・非専門家はどう反応したか

田中重人(2023) 統計コミュニティは統計不正にどう対応したか:毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき. OSF Preprint 2023-11-05.

 別にいま読む必要はないんだけど、なんとなく読みふけってしまった…
 基幹統計のひとつである毎月勤労統計において生じた不正集計問題を振り返る。一般メディアでは事業所の不正抽出問題が大きくクローズアップされたけれど、集計の仕方がおかしいという指摘もあったのです。私は途中まで固唾を飲んで情報を集めていたのだけれど、「一国が衰退するときはあらゆる側面がおかしくなるのだ…」となんだか妙な悟りを開いてしまい、以降は関心が薄れてしまっていた。
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読了:川田(2008) 許鞍華の映画について

川田耕 (2008) 憤怒・和解・自由 -許鞍華の映画について- (上), 京都学園大学経済学部論集, 17(2), 47-60.
川田耕 (2008) 憤怒・和解・自由 -許鞍華の映画について- (下), 京都学園大学経済学部論集, 18(1), 53-67.

 香港の映画監督アン・ホイの作品についての評論。作品でいうと、デビュー前のTVシリーズから「おばさんのポストモダン生活」あたりまでをカバーしている。未見の作品のあらすじを知りたくて手に取った。
 「男人四十」というマイナー作品に対する評価が非常に高くてちょっとびっくりした。あれ、ジャッキー・チュンがカリーナ・ラムと寝ちゃうのってどうなの? 悩んでおいて結局寝るの? って思うんですけどね。もっとも、私がモテるおっさんに冷たすぎるというだけで、物語としてはあれでいいのかもしれない。
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読了: Buckley, et al. (2023) みんなプーチンを支持しているとみんな思ってるからみんなプーチンを支持している

 今月、新聞に世論調査についてのちょっと面白い記事が載っていた。リンク切れに備えてメモしておくと、朝日新聞の2023/9/11の記事で、見出しは「『不人気』報道 不人気呼ぶ?」。ロシアで行った実験で、プーチンの人気の有無についてフレーミングしたのちにプーチン支持を訊くと、ネガティブ・フレーム下で支持率がすごく下がった、つまり、プーチンに人気が無くなったと人々が信じればプーチンの支持率は急落するんじゃないか、という話。
 当該の記事には研究者の名前さえ載っていない。しばしのWeb検索の末、元ネタはこれじゃないかなという論文をみつけた。こういう記事にはソースのURLをつけてくれればいいのにね。

Buckley, N., Marquardt, K.L., Reuter, O.J., Tertytchnaya, K. (2023) Endogenous Popularity: How Perceptions of Support Affect the Popularity of Authoritarian Regimes. American Political Science Review, First View, 1-7.
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読了:小林・苗村・清水(2021) 科学的説明というのは必ず因果的説明なのか、そうでもないのか

 マーケティング・リサーチというよくわからない分野で細々と生計を立てていて、ときどきうんざりするのは、あまりに説明と理解が重んじられるという点である。「分析の結果が腹落ちすることが大事だ」とかね。その「腹落ち」ってなに? そんなに神聖なこと? 現実には、人は往々にして、いいかげんな説明によって浅薄な理解に陥ってしまい、それによってかえって視野を狭くしてしまうことだってある。むしろ、わからないことをわからないままに抱え込んでいく強靱さが大事なのではなかろうか…
 などとぐるぐる考えていると、ではそもそも説明ってなんなの? と不思議に思えてくる。広辞苑によれば説明とは、(1)事柄の内容や意味を、よく分かるようにときあかすこと、(2)記述が事実の描写や確認に留まるのに対して、事物や出来事が「なぜかくあるか」の根拠を示すこと。科学的研究では、個別事象を一般的法則と初期条件から因果的に導くこと。なのだそうである。しかし、差し障りがあるから細かく書けないけど、世のビジネス書に書いてあるアレも、マーケティングの偉い先生が仰るアレも、よくよく考えると、上記の意味での説明にはなってないよね? などと考え込んでしまう。

小林裕太・苗村弘太郎・清水雅也 (2021) 非因果的説明論の現在: 多元説・還元的一元説・非還元的一元説. フィスカル, 6(3), 146-174.
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読了:小川(1997) 沖縄の民俗宗教をまるごとキリスト教に鞍替えさせた牧師の話

 宮田登「弥勒」という本を読んでいて、宮古島に洞窟を崇拝するミロク教という新宗教があったと知り、へええ? と興味本位で検索したところ、下記の紀要論文をみつけた。論文の本題とは別に、登場する松森善正という人の人生があまりに面白いので、その点に絞ってメモしておく。

小川順啓(1997) 民俗宗教からキリスト教へ ある沖縄のキリスト教会の物語. 駒澤大学文化, 17, 45-74.
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読了:伊勢田(2013) ウィッグ史観のなにが悪い?

 調べものをしていて時々思うんだけど、たいていの学術書や論文はイントロで先行研究の限界を指摘する。それはいいんだけど、X学というすでに確立したディシプリンの入門書とか教科書とかのイントロ部分で、それに先行して確立していたディシプリンであるところのY学の限界をいちいち述べていることがあって、あれ、ちょっとうんざりするんですよね。あなたたちは既存体系との比較を通じてしか自らをアイデンティファイできないのかい? いつまで人をディスっているんだい? って思う。具体的にいうと行動経済学の話なんですけど… 素人の感想なので勘弁してください。
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読了:張(2021) 近年の香港映画における「病」の意味

張宇博(2021) 近年の香港映画における「病」の意味 -『一念無明』、『幸運是我』を例として-, 早稲田大学大学院文学研究科紀要, 66, 483-496.

 読んだものはなんでも記録しておこう、ということで…
 おそらくは院生さんによる紀要論文。たまたまみつけて読み耽った。
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