月別アーカイブ: 2025年5月

読了: Wu (2022) 非確率標本による統計的推論 (質疑応答編 パートI)

Bailey, M.A. (2022) Comments on “Statistical inference with non-probability survey samples” – Non-probability samples: An assessment and way forward. Survey Methodology, 48(2), 313-318.
Elliott, M.R. (2022) Comments on “Statistical inference with non-probability survey samples”. Survey Methodology, 48(2), 319-329.
Lohr, S.L. (2022). Comments on “Statistical inference with non-probability survey samples”. Survey Methodology, 48(2), 331-338.
Wang, Z. & Kim, J.K. (2022) Comments on “Statistical inference with non-probability survey samples”. Survey Methodology, 48(2), 361-366.

 カナダ統計局のSurvey Methodology誌に載った、非確率標本の分析についてのレビュー論文 Wu(2002) には、5人の識者によるコメントと著者の返答が付いている。以下はそのうち4人についてのメモ。残るMengさんのコメントは、20頁近い大論文になってしまっているので、別のエントリで。

 読み返してみるとなんだか喧嘩しているように見えて面白い。論文へのコメンタリーというものはかなりの行数を使って元論文の良いところを挙げるものだが、そういうのは全部端折ってメモしているので、そうみえるのである。いいぞ、もっとやれ。
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読了: Wu (2022) 非確率標本による統計的推論 (レビュー編)

Wu, C. (2022) Statistical Inference with Non-probability survey samples. Survey Methodology, 48(2), 283-311.

 仕事の都合で読んだ奴。非確率標本からの母集団特性推定についての研究レビュー。掲載誌はカナダ統計局の発行。
 本文は35ページ、その後5人の論者による質疑応答がついて、全部で100ページ近い。いや、読みますよ、読みますけどね、いろいろ辛いなあ。
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読了: Sigmund & Ferstl (2019) パネルVARモデルのRパッケージpanelvar、その全内幕

Sigmund, M., & Ferstl, R. (2019) Panel vector autoregression in R with the package panelvar. The Quarterly Review of Economic and Finance.

パネルVAR(ベクトル自己回帰)モデルのためのRパッケージpanelvarの解説。先日、仕事で使おうかなと思う用事があったので、試しにめくった次第。もちろん細かいところは全然理解できていない。
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読了: Rodriguez-Rondon & Dufour (2024) MSTestパッケージをインストールしなさい。マルコフ・スイッチング・モデルのレジーム数についての本当の検定というものをお見せしますよ

 このたび仕事で時系列のレジーム・スイッチング・モデルの話に取り組んでいたんだけど、困ったのが、ある時系列についてわざわざレジーム・スイッチを考える必要があるのかないのか、どうやって判断すんの? という問題であった。(あまりに初歩的な疑問で、なんだか恥をさらしているような気がする…)

 きっとなにかしら検定のような方法があるはずだ。でも、直観的には、単にレジーム数1のモデルと2のモデルのあいだで尤度比検定してはいけないような気がする。しかし、なぜそう思うのか自分でもうまく説明できない。
 RにはMSTestというパッケージがあって、レジーム数についての検定をご提供します、って書いてある。お、これじゃん。ところが、出力の見方がさっぱりわからない。思い余ってChatGPTくんに尋ねてみると、いいえ、RのMSTestパッケージとはマルチ・ステージ検定のパッケージです、マルコフ・スイッチング・モデルのレジーム数については、2つのモデルの間での尤度比検定が可能ですと断言し、Rのコードと出力例を示してくる。しかし、どうみてもシンプル過ぎるコードと雑な出力で、疲れている私の目から見ても疑わしい。ひとこと「ほんとですか?」と問い返すと、しばらく考えたのちに「申し訳ありません、検定はMSTestパッケージによって可能です」と反省のそぶりを見せるが、今度はありもしない関数の使い方を説明してくる。
 キレるよ? 夜中にブチギレちゃうよ???
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読了: Visser & Speekenbrink (2010) RのdepmixS4パッケージへの招待

Visser, I., & Speekenbrink, M. (2010). depmixS4: An R Package for Hidden Markov Models. Journal of Statistical Software, 36(7), 1–21.

 RパッケージdepmixS4のvignette。上記はJSSの論文だが、実際にはパッケージ添付のvignetteを読んだ。
 実戦投入検討前のセレモニーとして大急ぎでめくった奴なので、ほとんどの部分をちゃんと読んでいない。
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読了: Torkamani & Lohweg (2017) 時系列モチーフ発見入門

Torkamani, S., & Lohweg, V. (2017) Survey on time series motif discovery. WIRES Data Mining and Knowledge Discovery, 7(2).

 仕事の都合で読んだ奴。時系列モチーフ発見についての短い解説。この分野について全然知らんので、まずは易しそうなやつから目を通した。でも、数式が全く出てこないというのも、それはそれで怖いなあ…
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読了: Schwarzkopf (2016) 市場調査の歴史:1890-1960

Schwarzkopf, S. (2016). In Search of the Consumer: The History of Market Research from 1890 to 1960. In B. Jones, & M. Tadajewski (Eds.), “The Routledge Companion to Marketing History“.

 仕事の都合で読んだ奴。
 市場調査の歴史についての解説。入手方法を模索していたのだが、google booksでたまたま全部読めることに気が付いた。
 いま調べていることと関係があるのでありがたいし、それを離れても面白いっちゃ面白い。しかし、途中で(俺はいったいなにを読んでいるんだ…)という気もしてきた。気持ちが萎えそうになったので、メモが少々細かめになっています。
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覚え書き: Pearl先生、「強い無視可能性」概念を全力でディスるの巻

 いま流行りの因果推論の分野における一方の巨匠Pearl先生は、同時にかなり攻撃的な物言いでも知られている方である。もしかすると同業の先生方は困っちゃっているのかもしれないし、パレスチナ問題に関するツィートは私もちょっと引いちゃいましたが(私はもうXにアクセスしてないので最近の動向はわからない)、専門家がご専門の話題について旗幟を鮮明にし論点を明示してくださるのは、初学者としては助かる面もありますね。それに、ほら、人の悪口ってちょっと楽しかったりしませんか。しますよね。

 Pearl先生の主著”Causality”は第1版が邦訳されているが、難解さで知られており、私は何度もトライしては挫折している。いっぽう、第2版(2009)には第1版から追加された章があり、その一部はwebで公開されており、それらはなかなか楽しい内容が多い。11.5.3節の架空対話は以前ほとんど全訳してしまった。
 このたび調べ物をしていて、因果推論の重要概念として人口に膾炙している「強い無視可能性」概念を批判しその提唱者らをディスっている文章を見つけてしまい、お茶を啜りつつフガフガと楽しく読んだ(すいません)。勢いあまってメモを取ったので載せておく。
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読了: Muthen & Asparouhov (2020) ランダム切片つきの潜在遷移分析

Muthen, B., Asparouhov, T. (2020) Latent Transition Analysis with Random Intercepts (RI-LTA). Psychological Methods, 27(1), 1-16.

 仕事の都合で手に取った。Mplusの開発元であるMuthenチームが提案しているランダム切片潜在遷移分析(RI-LTA)の論文。
 説明が丁寧でとても読みやすいし、内容も面白いのだが、ちょっといま時間がないもので、おおまかな主旨がわかったところで中断した。記録の都合で読了にしておくけれど、いつか必要になったら読み直そう、ということで…
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覚え書き: 咲き誇れ、乱れ飛べ、動的SEMのよくわからないモデルたちよ

 これは完全に、私による私のための覚書です。いや、全部そうなんですけどね。

 仕事の都合もあって、性懲りもなく時系列のマルコフ・スイッチング・モデルについて調べているのだけれど、いろいろと困惑している。手元の具体的問題というのは常になにかしら特殊性を帯びているもので、教科書的な事例がそのまま適応できることはめったにない。
 このたびは、ものすごおおおくたくさんの時系列がある、カレンダー時間は共通、レジームも共通、でもスイッチングのタイミングは時系列ごとに推定したい、という問題を抱えている。こういうのってなんていえばいいんですかね? そんなに変わった問題ではないと思うんだけど、計量経済学の先生は頼りにならなさそうだ。

 この手の話について検索すると途端に上位に出現するのが、かのMplusの開発元、Muthen一家による動的SEM(DSEM)の論文である。パネルの縦断測定をSEMの枠組みで分析しちゃおう、計量経済学者たちよ、おまえらがやってんのは所詮は我々の分析の特殊ケース(N=1のケース)に過ぎない、そこにひざまずいて心理学者に謝れ、とおっしゃる危ない奴らである(いってません)。
 正直、勘弁してほしい。いや、Muthen先生たちに罪はないのよ。彼らの論文はわかりやすいことが多いし、Mplusは我々いたいけなユーザを泥沼に沈めるいっぽうでとんでもない問題を一発で解決してくれることもある。でも… あの先生たちの論文って往々にして、聞きなれないモデル名称が頻出するじゃないですか。さらにいえば、そもそも論文など読みたかないじゃないですか。疲れているんです、生きているだけで。

 というわけで、以下からメモ。

Asparouhov, T., Muthen, B., Hamaker, E. (2016) Latent class analysis for intensive longitudinal data, Hidden Markov processses, Regime Switching models and Dynamic Structural Equations in Mplus.
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読了: Kuschning & Vashold (2021) BVARパッケージで君も楽しくVARモデルを経験ベイズ推定しようぜ

Kuschning, N., Vashold, L. (2021) BVAR: Bayesian Vector Autoregressions with Hierarchical Prior Selection in R. Journal of Statistical Software, 100(14).

 RパッケージBVARの解説。これ、いまやりたいこととはちょっと違うんだろうなとうすうす感じてはいたのだが、どんな話か気になって。
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読了: Osmundsen, Kleppe, Ogland (2019) マルコフ・スイッチングVARモデルをStanやJagsや自力で実装する方法

Osmundsen, K.K., Kleppe, T.S., Ogland A. (2019) MCMC for Markov-switching models—Gibbs sampling vs. marginalized likelihood. Communications in Statistics – Simulation and Computation.

 仕事の都合で、マルコフ・スイッチングVARモデルについてあれこれ考えているのだけれど、組みたいモデルを推定できるソフトがなかなか見当たらない。RではかつてMSBVARというパッケージがあったのだけれど、開発が止まったようで、CRANからもremoveされている。
 これは自力で書けっていうこと? 到底そんな学力はない。Stanでどうにかする? でも離散潜在変数ってめっちゃ難しいんじゃなかったっけ… と思い悩みながらwebの海をさまよっていたら、Stanでの実装を示している人がいた。いわく、詳細はこの論文を読め。はい、読みます。
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読了: Bucci, Palomba, Rossi (2022) ベクトルロジスティック平滑遷移自己回帰モデル(VLSTAR)への招待

Bucci, A., Palomba, G., Rossi, E. (2022) starvars: An R Package for Analysing Nonlinearities in Multivariate Time Series. R Journal, 14, 208-226.

仕事の都合でマルコフ・スイッチング・モデルについて調べていて、試しに読んでみたやつ。Rのstarvarsパッケージのvignetteにあたるもので、R Journalの記事である。
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読了: King, Mgyen, Ionides (2016) 部分観察マルコフ過程のRパッケージpomp

King, A.A., Ngyen, D., Ionides, E.L. (2016) Statistical Inference for Partially Observed Markov Processes via the R Package pomp. Journal of Statistical Software, 69(12), 1–43.

仕事の都合でマルコフ・スイッチング・モデルについて調べているんだけど、CRAN Task ViewsのTime Seriesで挙げられているマルコフ・スイッチング・モデルに関係しそうな雰囲気のパッケージとしてNTS, MSwM, depmixS4, pompがある。このうちpompってやつが一体なにやってんのか全然わかんなかったので、試しにvignetteをめくってみた。おそらく同内容の論文がJ. Statistical Softwareに載っている(上記)。
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